人権を考えるための一冊(本紹介)①「特権」について
【本記事は、過去の機関紙にて掲載した記事を、一部内容を加筆修正し投稿しております。】
『真のダイバーシティをめざして』(上智大学出版,2017年)
ダイアン・J・グッドマン/著 出口真紀子/監訳 田辺希久子/訳
「特権」と聞いて読者のみなさんは何を思い浮かべるだろうか。普段の生活の中では「学割が使えるのは学生の《特権》だ」、「テーマパークにすぐ行けるのは地元住民の《特権》だ」等といった使い方をすることがあるだろう。今回紹介する本の中で軸となる内容は「特権」である。しかし、この本の中で扱われている「特権」は、「あるマジョリティ側の社会集団に属していることで、労なくして得ることのできる優位性」を指す。先ほどの学割やテーマパークの例で用いられた「特権」は、努力をして得られたり、数ある選択肢の中から選んだりできる「一時的立場による優遇」と捉えることができ、労なくして得られた優位性、とは性質が異なったものであることがわかる。では「労なくして得ることのできる優位性」とはどういうものか。例えば国籍や人種、性別/性自認、障害の有無、年齢、出自…などが挙げられる。部落問題で考えると、「自分の出身地をためらうことなく他人に伝えることができる」かどうか、である。もし、先ほどの問いに難なく「できる」と答えられる人は、「特権」を有する側の立場である、といえるだろう。
人権について考えるとき、この「労なくして得られた優位性や立場」という視点をもつことにより、加差別の実態や構造、抑圧についてより深く考えられる視点を与えてくれる。本書は、その「特権」を拠り所として、マジョリティの立場にある人々を巻き込む社会的公正な取り組みを進めていくためのヒントを私たちに示してくれる。
(2023年10月発行「かいほう」192号より加筆修正)